2017年2月20日月曜日

ディックブルーナさんに寄せて

こんにちは。お久しぶりの更新です。
今回は先日亡くなられたディックブルーナさんについてです。
彼の描いたオランダ語でいうナインチェ、ふわふわうさぎちゃんは、今ではミッフィーというキャラクターとして愛されていますが、
私達の子どもの頃は、福音館書店から出された石井桃子さんの訳で、うさこちゃんとして親しんでいました。
くっきりとしたわかりやすい線のなかに、ブルーナカラーという単色を限られた数だけ使ってまあるく描かれた絵と、
シンプルなストーリーはどこまでもこどもにやさしく、いつくしむ視点が守られています。
そして、シンプルでやさしいようで、彼の絵本の中には確固たる哲学があって、それは絶対に揺るぎません。
愛されて守られるべきこども、一緒にわくわくすること、あたらしいことに挑戦する喜び、家族を愛すること、友達と信頼しあうこと、音楽の美しさ、大切な人を亡くした時のこころ、差別に対する姿勢。
私は息子が生まれてから4年間、ハウステンボスで暮らしていましたが、イメージされたオランダはブルーナさんの母国でもあるので、ナインチェというミッフィーの専門店とキッズコーナーがあり、私は二歳の娘と生まれたての息子をベビーカーに乗せて、毎日風車の道を抜けて、最後はナインチェで遊ばせていました。
子育てのそばには、ずっとブルーナさんの作品がありました。
オランダというと、風車やチューリップ、うさこちゃんと同時に、私はアンネフランクを思い浮かべます。
12歳になる娘も、愛読しているアンネの日記ですが、ご存知のとおり、彼女はユダヤ人というだけで、隠れ家での生活を強いられ、その後収容所にとらえられてなくなります。15歳の可愛いらしい女の子が。
彼は、子供の頃、戦時中、捕らえられるユダヤ人たちを見ながら、戦争に対する強い憤りと、悲しみを覚えたそうです。
そして、隠れ家での暮らしの中で、絵を描き、自由を求めた生活が、彼の人生を決定づけ、企業よりも、子どもの平和や幸せを願う絵を描く仕事を選んでいくことになります。
私の愛する児童文学作家のケストナーさんも、ナチスによって著作を燃やされ、その炎をカフェからゆうゆうと見ていたそうです。
(でも、児童文学は、人気なあまり、燃やせなかったそう)
同じくドイツの、私が大好きなミヒャエルエンデさんも、政治家で反ナチスの活動を続けていました。

彼らが子供のための物語を書く背景には、戦争や暴力に対する強い怒り、そして、それらから何としても子供を守りたいという願いがあります。
差別、偏見、貧困、いろんなものがまじりあって、世界は戦争に向かいます。
もし私たちがそれらに立ち向かうとすれば、それは武器ではなく、子どもをいつくしむ気持ち、愛とか、やさしさとか、そんなものではないかと思います。
音楽を愛すること、美しい声で歌うこと、物語を楽しむこと、家族や友達といつくしみあうこと、ひとりひとりが夢を持って、人生を楽しんで生きること。
それらはきれいごとかもしれませんし、ふわふわした夢のようなものかもしれませんが、私たちは、子供たちを歌いつづけるなかで、きっとそれは実現可能なものではないかと思いながら活動しています。
子どもたちが声をあげて、友達と手を取り合って、歌うこと。
そして、それを私達大人がきいて、力をもらうこと。たくさんのやさしさが、歌をとおして世界に広がること。
それは、私たちにできる、小さな戦いなのかもしれません。